広島市内の自宅で3歳男児を粘着テープで巻くなど暴行した疑いで逮捕された母親と祖父がこのほど、「暴行罪」ではなく「逮捕罪」で起訴された。
報道によると、母親と祖父は2024年9月、真夜中から約5時間半にわたって男児の両腕や両足首を粘着テープで縛り、拘束した疑いがあるという。警察は、暴行の疑いで逮捕・送検したものの、検察は逮捕の罪で起訴したようだ。
警察と検察で罪名について判断が分かれた形となったが、なぜ異なる罪名となったのだろうか。元警察官僚の澤井康生弁護士に聞いた。
●「身体活動の自由を奪う」レベルか否か
──暴行の疑いで逮捕・送検されたものの逮捕罪で起訴されるというのは必ずしも珍しくないのでしょうか
暴行罪で逮捕されたのに逮捕罪で起訴されるというのは十分ありえるケースだと思います。
暴行罪における暴行は身体に対する不法な有形力の行使であるのに対して、逮捕罪における逮捕は人の身体を直接的に拘束してその身体活動の自由を奪う行為をいいます。
不法な有形力の行使が被害者を拘束してその身体活動の自由を奪うレベルにまで至っている場合には逮捕罪のみが成立します。
おそらく逮捕時点では粘着テープを巻くことによる瞬間的な暴行と思われていたところ、その後の取り調べ等で粘着テープで身体を拘束して一定時間その身体活動の自由まで奪っていた事実が判明したことから、より罪の重い逮捕罪で起訴したものと思われます。
──刑法には監禁罪もありますが、逮捕罪との違いは何でしょうか。
両方とも同一の条文(刑法220条)に規定されており、人の身体活動の自由を保護しています。
逮捕罪における逮捕は人の身体を直接的に拘束してその身体活動の自由を奪う行為です。これに対して、監禁罪における監禁は人の身体を場所的に拘束して、その身体活動の自由を奪う行為です。
要するに、逮捕は人の身体をロープで巻くとか手錠をかける等して直接的に拘束する行為であるのに対して、監禁は建物内や室内に人を閉じ込めることにより拘束する行為です。 ──今回のようなケースで、仮に公判で「逮捕罪には当たらないのではないか」との心証を裁判官が持った場合、無罪となるのでしょうか。
裁判例上、逮捕罪が成立するために被害者の身体活動の自由を多少の時間継続して拘束することが必要とされており、瞬時の拘束は暴行罪となるにすぎません。
もし、裁判官が逮捕罪には該当せず、暴行罪にすぎないとの心証を抱いた場合、検察官に対し、訴因を暴行罪に変更するよう促すことになると思います。検察官がこれに応じ、訴因を暴行罪に変更すれば、暴行罪で有罪判決が出ることになります。