この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
依頼者様は、介護事業(訪問介護等)を営む企業様でした。利用者は、視力障害と歩行障害があり、自宅内での移動には他人の介助が必要な方でした。依頼者様は、利用者から自宅での訪問介護を依頼され、利用者宅にヘルパーを派遣して、利用者の介護を行っておられました。ところが、介護を開始してから1か月ほど経ったある日、ヘルパーが利用者をトイレに連れて行く際、利用者が段差につまずいて転倒し、骨折等の怪我をしてしまいました。ヘルパーは、すぐに救急車を呼び、病院まで付添いました。利用者は、そのまま入院して治療を受けることになりました。依頼者様は、介護事故による損害賠償を補填する保険に加入しておられましたので、利用者の入院期間中の治療費等については、全額が保険会社から支払われました。ヘルパーと依頼者様(社長)は、利用者に対して何度も謝罪し、お見舞いに行くなどして誠意を持って対応されました。しかし、その後、依頼者様は、利用者から、後遺障害が残ったことによる慰謝料等の支払を求める損害賠償請求訴訟を提起されることになりました。法的構成は、ヘルパーに対する不法行為責任、依頼者様に対する使用者責任及び債務不履行責任でした。
当職にて、上記損害賠償請求訴訟の委任を受けました。上記訴訟においては、ヘルパーが利用者に対して段差がある旨の注意喚起をしていたか否かという事故態様、ヘルパーが作成した事故報告書の記載内容の解釈、依頼者様におけるヘルパーの選任・監督について相当の注意を行っていたか否かなどが争われ、ヘルパーに対する不法行為責任、依頼者様に対する使用者責任及び債務不履行責任をめぐって熾烈な主張・立証の応酬がなされました。その中では、ヘルパー、依頼者様(社長)、利用者の当事者尋問が行われました。そして、3年かかった訴訟が終結しました。結果は、ヘルパーと依頼者様には責任がないという、当方の主張を全面的に認めた完全勝訴判決でした。
利用者は、長年にわたって自宅で生活しており、トイレに行く際の段差があることは熟知しているはずでした。また、ヘルパーは、これまでの約1か月間の介護において、毎回、トイレに行く際の段差に差し掛かったときは、利用者に対して「段差ですよ」とお声かけをして、段差についての注意を促しておりました。このような状況において、介護記録等の資料を書証として提出し、ヘルパーの当事者尋問で立証を補充し、ヘルパーには介護を行うに当たっての過失がなく不法行為責任が成立しないことを立証いたしました。また、依頼者様においては、利用者の状態を慎重に判断して当該ヘルパーを担当としており、ヘルパーに対する定期研修やヘルパーが作成する介護記録の毎回のチェックとフィードバックを行っておられました。このような状況において、研修資料や介護記録等の資料を書証として提出し、依頼者様(社長)の当事者尋問で立証を補充し、依頼者様はヘルパーの選任・監督について相当の注意を行っており、使用者責任及び債務不履行責任が成立しないことを立証いたしました。3年という長い期間を要しましたが、最終的に、完全勝訴判決を得ることができました。依頼者様からは、「長い時間かかりましたが、裁判官がきちんと分かってくださって、本当によかったです。〇〇さん(利用者)に対しては、これからも誠意をもって対応したいと思っています。ありがとうございました。」との感謝のお言葉をいただきました。