この事例の依頼主
男性
不動産業を経営しております。借家人がいる家(戸建て)とその敷地を購入しました。敷地は、その家の敷地を含んだ広い面積があります。購入後、その家を取り壊し、広い敷地を一体として開発するために買いました。ただ、当社が購入する前から、前の大家さんが借家人と立ち退き交渉をしていましたが、長い年月に渡って話が進展していない物件でした。立ち退き交渉が一筋縄では行かないかもしれないということで不動産に強い弁護士に相談しました。
借家人を立ち退かせるためには、大家の方に正当事由が必要です。ただ、この正当事由の認定は厳しく、経済的な理由だけでは裁判所に認めてもらえないものです。そのため、立ち退き請求訴訟をしても立ち退けという判決を得られないおそれがあるため、裁判所に調停を申し立てることにしました。ところが、調停の初日に、相手の借家人が求める立退料が過大すぎるため即座に調停は決裂しました。借家人の要求する立退料は1000万円を超えるものでした。調停が決裂したので、やむなく、立ち退き請求訴訟を提起しました。上に書いたように、正当事由が認められないおそれがあるので、この点は十分に配慮しました。かなり古い建物で老朽化の程度が大きかったため、耐震査定をしたところ、耐震の評価が0.1を下回る極めて低い数字となりました。通常は0.7を切ると倒壊する可能性が高いとされますが、これは、その0.7を極端に大きく下回る数字です。したがって、正当事由の理由の一つに、建物が倒壊寸前で極めて危険であるということを訴訟では付け加えました。訴訟手続の中で、裁判所は、耐震査定の結果からすると立ち退き請求の正当事由が認められかねない状況であると相手方に説明したりしたようです。訴訟の最初のうちは、絶対に立ち退かないと言っていた相手方の方も折れてきました。裁判では、立退料をいくらで立ち退くかという和解を成立させることが焦点になり、結局、立退料300万円を支払って立ち退いてもらうという和解を成立させることができました。調停のときに相手が要求した1000万円を超える額からすると、はるかに安い立退料になったのでほっとしました。
本件では、できれば調停を成立させたかった事案です。なぜなら、立ち退き請求訴訟では、大家の方に正当事由がないと立ち退きを認めないという判決になってしまうからです。この正当事由が認められるためには、大家やその家族が災害などで住む家がなくなってしまったので、借家人に貸している家に住む必要が生じたなど、かなり強い理由が必要です。この正当事由が認められないと、立ち退き請求訴訟を提起しても敗訴してしまいます。そのため、耐震診断をしてみたところ、耐震評価の数字がかなり低かったので、場合によっては、認めてもらえる可能性があるということで訴訟に踏み切ったものです。結果的には、相手が当初要求していた立退料から、はるかに減額した金額の立退料で立ち退いてもらうことができ、不動産に強い弁護士の面目を保つことができました。