この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
相談者は、某県某市において建物を借りてパチンコ店を経営していました。しかしながら、パチンコ業界の構造的な不況により売り上げが徐々に減少し、契約したときの賃料ではとても経営が成り立たないレベルまで来たということで、賃貸人に対して賃料減額を申し入れました。ところが、賃貸人からは、「今の賃料が払えないのなら、パチンコ屋を畳んで出て行ってくれ。」と言われ、頑として減額を認めてくれず、どうすればいいのか相談に来られました。
まずは、現行賃料が周辺相場よりも高い状態となっているのかを相談者に調べてもらったところ、やはり、周辺の商業施設の賃料相場よりも高い状態とのことでした。ならば、当該店舗の適正賃料は幾らかを算定するために、相談者了承の下、懇意の不動産鑑定士に適正賃料を鑑定してもらったところ、店舗については現行賃料から50パーセント以上低い鑑定の数字が出てきました。その鑑定の数字を基に、賃貸人と任意の交渉をしたのですが、相談者に対する対応通り取り付く島もなかったので、鑑定の適正賃料の数字を根拠に、簡裁に賃料減額請求調停を申し立てました。しかしながら、調停では両者の主張の隔たりが大きく不成立となったので、直ちに地裁に賃料減額確認請求訴訟を提起しました。訴訟手続において、裁判所選定の鑑定人により、裁判所鑑定がなされ、現行賃料の約20パーセント減という鑑定結果が出て、裁判所の勧めにより、和解成立で解決しました。なお、本建物については、賃料減額の和解成立後3年経過したところでもう一度同様の賃料減額手続を行いましたが、賃貸人からの出ていってほしいという強い要求があり、相談者としても当該店舗を閉鎖したいという事情がありましたので、原状回復など相当有利な条件で和解を成立させ、当該建物から立ち退き、事件として終了しました。
建物賃貸借において現行賃料を減額しようとする場合、賃貸人・賃借人の減額についての合意が成立すればいいのですが、成立しない場合、借地借家法32条1項の手続に基づいて減額が認められることとなります。両者の合意ができない場合、減額を希望する賃借人は、まず簡易裁判所に賃料減額請求調停を申し立てなければなりません(これを「調停前置主義」と言います。)。簡裁で調停が不成立となって初めて地方裁判所に賃料減額請求訴訟を提起することができます。訴訟手続において、賃借人が請求する新賃料額が適正であることを証明するために、不動産鑑定士に賃料額を鑑定してもらうことになります(これを「私鑑定」と言います。)。借地借家法32条1項において、賃料減額請求をなすための前提条件として、現行賃料の最終合意時点から、新賃料請求の意思表示をなした時点までの期間において、①建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の減少、②土地若しくは建物の価格の低下、③その他の経済事情の変動、④近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときを充足する必要がありますので、私的鑑定においては、適正賃料額の鑑定に加え、これら①-④の項目についても低下・減少傾向(右肩下がり)であることを鑑定してもらう必要があります。賃借人として私鑑定を証拠として提出し、裁判所鑑定人がそれを参考にして、裁判所鑑定人としての適正賃料額を鑑定することとなります。多くのケースでは、裁判所鑑定人の鑑定額で、新賃料額が和解で決定されることとなりますが、和解が成立しない場合、判決をもらうということになります。賃料増額請求において重要なのは、新賃料が裁判所で決定した場合、賃料減額の意思表示をした時点から現在に至るまでの賃料差額を賃貸人に請求できるということになりますので(加えて年1割の利息も請求することができます。)、賃料減額の意思表示は明確に行っておくことが肝要です。また、和解手続となった場合に、裁判所は、この新賃料との差額の支払額を調整することで和解を成立させようとしますので、その点も要注意です。本建物の第2回賃料減額請求手続においては、新賃料の決定という結果ではなく、相談者である賃借人の建物退去という形での解決となりましたが、賃料増額の場合においても、減額の場合においても、賃貸借契約の合意解約という形で終結することはありうることですので、解決の方法として考えておくべきだと思われます。